Viager

Viager[ヴィアジェ]について

フランスには所有する不動産を相続する人がいない場合、ヴィアジェ(viager)と呼ばれる独特の売買システムが200年以上前から存在するという。70才以上の身寄りのない老人に多く利用される売却方法で、ヴィアジェは“終身”という意味。

その特徴は、不動産を売却しても、売主が亡くなるまで住み続けることができることで、買主はすぐに住むことができない。売主が亡くなれば、家は買主に引き渡される。買主はブーケと呼ばれる一時金と、毎月一定額のレントを支払う必要がある。レントは売主が亡くなるまで払い続けなければならない。

買い手にとって、ヴィアジェの物件は通常より安いことがメリットだが、売主が長く生きた場合には、総支払額が高くなるというデメリットもある。総額がいくらになるか分からずギャンブル性が高いヴィアジェは、売却希望者は多いものの購入者は限られていた。しかし近年、高齢者の増加に伴いヴィアジェに注目が集まり始めているという。

劇中、マティルドの主治医がこんな逸話を紹介する。1965年、90才だったジャンヌ・カルマンは、当時47才だった公証人フランソワ・ラフレーとヴィアジェの契約を結んだ。しかし、彼女はその後32年間生き続けギネスの長寿記録を打ち立てる。フランソワは1995年、77才でこの世を去ってしまう。ジャンヌが1997年122才で亡くなるまで、彼の妻が年金を払い続けたという。主治医は「(マティルダ)ジラールさんはジャンヌより長生きするかも」と話を締めくくる。

また1884年に出版されたモーパッサンの短編小説「酒樽」にもヴィアジェが登場する。シコとっさんは、マグロワールばあさんとヴィアジェの契約を交わす。しかし、ばあさんが死ぬ気配を見せないので、シコは一計を案じる。ばあさんはシコからもらった酒樽から毎日のように酒を飲み、とうとう冬の日に酔っ払って、雪の中に倒れこみ命を落とすという物語だ。アイロニーに満ちたヴィアジェという仕組みには悲喜こもごものドラマがついて回る。

日本にも似た仕組みとして、リバース・モーゲージという制度がある。これは、自宅を担保にして銀行などの金融機関から融資を受け、年金という形で毎月分割して受け取る仕組みだ。1981年、東京都武蔵野市で導入されたのを皮切りに、主に都市部の自治体と一部の民間金融機関で採用されている。ヴィアジェが不動産の売買であるのに対し、リバース・モーゲージは土地を担保とした融資である点が大きな違いである。

※ギ・ド・モーパッサン・青柳瑞穂訳「酒樽」『モーパッサン短編集㈠』(新潮文庫2013)参照。

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